フィンランド教育改革と社会変動
2005年にフィンランドの教育行政を視察する機会に恵まれた。
フィンランドは、90年代に教育の大幅な分権化と学校裁量の拡大を行い、それ以後、急に学力が伸びてPISA学力テストでトップクラスに躍り出たことで世界に知られている。この大幅な教育改革が、やはり切迫した社会状況を背景にしている。
フィンランドの場合、90年代前半に、社会・経済が危機的な状況に追い込まれている。
隣国のスウェーデンと同様に80年代に経済が過熱し、90年にそのバブルがはじける。金融機関の破綻と信用機構の危機がやってくる。そこに、ソ連崩壊が重なった。フィンランドは、ソ連・東欧圏との交流も深かった。
1990年から93年まで、経済成長率はマイナスを記録し、失業率も18%にまで上がる。25歳以下の若年層では、失業率は34%にのぼった。
95年にEUに加盟、2000年にユーロ通貨の導入と、90年代はフィンランドにとって激動の時代だった。
この状況を背景にして、教育では90年代前半に、構造改革が行われる。学校選択制を導入。視学制度を廃止。教科書検定制度を廃止。国家カリキュラムの大綱化など、思い切った施策が行われている。
それ以前はというと、中央集権的であり、教師権力が強い旧タイプの教育であった。
思想的には、新自由主義の影響が強い改革であった。しかし、イギリスのように、直接に学力を追ったり、学校査察を強化する方向には行かなかった。フィンランドにはもともと平等主義の考え方が強く、競争を嫌う社会風土がある。
フィンランドの主流の教育哲学がしっかりしていたのだろうと思う。子どもを主体にした捉え方をしているし、教育を受ける側の権利は確立している。学校間の競争はいささか持ち込んだが、子どもを追い立てる方向には行かなかった。新自由主義的影響は、結果的に適度の刺激になったのではないかと思う。
私の眼で見たフィンランド教育で、よいと思ったのは、教師たちがほんとうに教育の専門家であって、雑務に追われていないこと。子どもの側の権利が確立していて、落ちこぼれやマイノリティに対して手厚いこと。高等教育までのすべての教育が無償であることなどだった。
教科書を見せてもらったら、ほんとうに”教科書臭さ”がなかった。それで、「この教育改革はホンモノだな」と実感した。
いっぽう、教育制度について、教育と政治の分離が十分でないこと、大学入試と高校卒業資格試験の両方があることなど、未整備だと思われるものも多かった。全体としては、ついこの間まで中央集権であった痕跡をたくさん残し、過渡期にある制度という印象だった。
しかし、その状況は、中央集権的教育システムからの脱出の仕方のよい例だと思った。
フィンランドの、教育に賭けるしかない、という立場は、日本の比ではないと思った。
空から見ても、地上を車で走っても、フィンランドは、正真正銘、森と湖の国だった。なんでもっと農地や牧場ができないのか、と思った。ある家庭を訪ねてキノコ取りに誘われたときに、疑問が解けた。森の中は岩だらけだった。土などほとんどなかった。氷河期に、土がみんな流されてしまったのである。都市ではいたるところで岩盤がむきだしである。農地にできる土地は限られている。国際競争力を失って二次産業、三次産業が衰退すれば、それまでである。
政治的にも、スウェーデンとロシアという二つの強国に、取ったり取られたりしてもみくちゃにされていた歴史的経緯がある。独立を達成したのは、20世紀のロシア革命後である。軍事力、経済力などにたよることはできず、小国の知恵で生き延びるしかない立場である。
フィンランドに限らず、本当に先の見えない社会危機に襲われれば、子どもの学ぶ力を尊重し、子ども同士を競わせないタイプの教育が発達していくのが自然なことだろうと思う。
| 固定リンク


コメント
フィンランドは国としてはよくやっていると思います。ただ、人口だけを見るとちょっと大きい日本の県ぐらいです。県が市に権限移譲した程度の気がします。日本の中で昨年度も今年も学力テストで一位になった秋田県と比べてどうなのでしょう。日本にも日本らしい良い教育している県があると思います。そこいらの話を今度お願いします。
投稿: ss | 2008年11月 2日 (日) 21時15分